「家事のミカタ」はハウスクリーニングや家事代行の情報をはじめ、家事や暮らし、子育てに関するコラムを掲載しています。
2015/10/05 (月)

NPO法人「マドレボニータ」太田智子さんに聞く、産後の現実と「産後ケア」

構成・取材・文/今井早智 撮影/山出高士

特定非営利活動法人 マドレボニータ 事務局次長 太田智子さん

出産と育児の狭間にあって、これまであまり語られなかった「産後」。心身ともにつらい人も多い産後の過ごし方に着目し、「産後ケア」の研究開発と普及に取り組むのが、NPO法人「マドレボニータ」です。スペイン語で「美しい母」を意味するこの団体が目指すのは、母となった女性が産後の養生とリハビリに取り組み、本来もっている力を発揮できるような社会を実現すること。その第一歩が、母親となる女性自身が産後ケアに対する知識と理解を深めることです。事務局次長の太田智子さんにお話をお伺いしました。

母親学級でも母子手帳でもわからない「産後」の現実

──産後ケア。当たり前のことのようで、実は深く考える機会がなかったかもしれません。
太田:そうですよね。今の世の中には出産や子育てについてはさまざまな情報や支援があるのに、産後の母親のケアの部分は極端に薄いんです。「マドレボニータ」の設立者の吉岡マコも自身が出産を経験し、産後はこんなに体も心もボロボロになるのか、そんなこと母親学級でも母子手帳でも教わらなかった、と──。1998年の出産当時、産後ケアについてほとんど何の取り組みもなかった母子保健の現状に大きな疑問を抱いたことが、活動の原点になっています。

──「産めばラクになる」という言葉も聞くし、時間が経てば自然に回復するような気がしていました。
太田:産後にどんなことが起こるのか。まず知っておいてほしいのが、出産時、赤ちゃんを産み落とした後に母体はもう一度産気づいて、胎盤が排出されるということです。胎盤の大きさは個人差があるものの、まぁ、お好み焼きぐらい。子宮に張りついていたそれが剥がれ落ちるということはつまり、産後、同じ大きさの傷を子宮の中に抱え込むというわけです。それなのに、日本では出産後4泊5日ぐらいで退院し、24時間待ったなしの育児が始まる。母親本人もそんな傷があるとは教わっていないし、むしろ病気じゃないんだからと、家事も育児もひとりで頑張ってしまいます。産後はホルモンバランスの崩れからさまざまな変調も起こります。ほかにも当然、骨盤や股関節に影響があり、私たちの行った調査では出産経験者の半数以上が「妊娠中より体がラクになっていない」と感じています。そんななかで扱ったことのない赤ちゃんとの生活がいきなり始まり、体も心も休まらない状態がずっと続けば、いわゆるマタニティーブルーズや産後うつなどの症状が起きても不思議はありません。

──傷ができるという認識はありませんでした!
太田:出産から6〜8週間くらいまでを「産褥期」といいますが、この間はとにかく「養生」です。特に産後1ヶ月、一ヶ月検診くらいまでは、母親は、自分の体のケアと赤ちゃんの世話──布団の上でできることだけをして、それ以外は家事も上の子の世話もほかの人に委ね、ひたすら体を休める。いわば、頑張らないことを頑張るべき時期なんですね。そこを知らない人が多くて無理をするから、体も心もどんどんつらくなってしまいます。

みんなで支え合う「産褥ヘルプ」を文化として提唱したい

──とはいえ、実際に産褥期を布団の上で過ごすとなると、家事や育児に相当なヘルプが必要ですね。
太田:そこで夫の出番なんです。それは何も夫がすべて、三度の食事や掃除から赤ちゃんの世話まで背負い込むのではなく──そんなことはとても無理ですから──、夫にはわが家の産後を乗り切る「プロジェクトマネージャー」になってもらいましょうということです。もちろん家事・育児でできることはするにしても、日々のスケジューリング、家事代行サービスを使うとしたらその手配、友達が赤ちゃんを見に来たいというときも、遊びに来るなら沐浴もお願い、とか、お腹がすくからおにぎりを持ってきて、とか、マネジメントをしてもらいます。

──産後を乗り切るプロジェクト! なるほどイメージがわきました。
太田:私自身、昨年の第2子の出産では夫がプロマネを務めてくれて、産褥期はしっかりと休めました。上の子のときは里帰りをしたのですが、今回はありがたいことにマドレボニータの同僚や同じマンションに住む友人など、うちに来て手伝ってくれる人が大勢いたんです。夫がクラウド上にシフト表をつくって申し送り事項も記入し、誰かが「冷蔵庫に玉葱が残ってるよ」と書くと、翌日来る人が「じゃ、玉葱で何を作ろうかな」って(笑)。私がPCや携帯で目を使うと神経が休まらないので、夫が一切を管理し、お礼のメッセージも夫が打ち込んでいました。私たちは「産褥ヘルプ」といっていますが、こうした支え合いが文化として、身内だけでなく、友人やご近所、家事代行サービスも含めた形で当たり前にできればいいと思っているんです。

──自分だけでなく、周りの人にも理解を広げていかないといけませんね。
太田:妊娠中の女性が「産後はこうだ」と聞いてきても、親は「私は全部やったわよ」とか、夫は「そのために出産・育児休業があるんでしょ」みたいな感じでなかなかわかってもらえないようなんですね。その認識を変えていかないといけません。例えば、沐浴は産後の女性の体に相当な負担がかかるので、避けてくださいと私達は話しています。産後に体を休めるのは、よくいわれるような「出産のご褒美」などではなく、当然必要なこと。この時期に徹底的に休んでこそ、その後の子育てや家事がラクに元気にできるんです。

体を動かす「リハビリ」は産褥期を過ぎてから

産後の教室の様子

──でも、産後は体を動かしたほうがいいというようなことも聞きます。
太田:それは産褥期が明けてから。しっかり体を休めた後の「リハビリ」ですね。私たちもボディケア&フィットネスの教室を開いて指導しています。120分のプログラムで、1時間目はバランスボールを使った有酸素運動。2時間目は、2人1組になって人生、仕事、パートナーシップの3つのテーマを話し合います。それまで家にこもりっきりで、話すとしても赤ちゃんのことばかりだった母親たちが、自分の名前で自分のことを話す時間です。3時間目はセルフケア。呼吸法や肩凝りの対処法など自宅でもできるケアを学びます。通い続ける教室ではなく、1ヶ月間4回で完結するのも特長です。いわば卒業生を送り出すような形で、その人がこれから先の自分を考え、復職なり地域活動なり勉強なり、スムーズに社会復帰していけるよう橋渡しをするのが目的なんです。産褥期は「受けるケア」。それから後は「取り組むケア」。産後ケアはこの2つが必要だと私たちは考えています。

──産後の心身の不調とケアについて、私たちはもっと知るべきですね?
太田:マドレボニータでは自治体等と組んで産前産後のカップル向けのセミナーを開催しています。産後の現実に対して「何なの、コレは」というのと、「ああ、聞いていたアレね」と思うのとでは、本人の心の負担が全く違いますから。まずは母となる女性自身がきちんとした知識をつけること。そして、それをパートナーや親など身近な人に伝えることが重要でしょう。周りの人も、産後はそうだと聞いていれば受け止めてあげられます。夫が頑張って早く帰ってきたのに妻の機嫌が悪くて、「俺がいない方がいいのかな」と、お互い悪意はないのに負のスパイラルに陥ってしまう夫婦も少なくないので……。

──家事代行サービスやベビーシッターはどのように利用するといいでしょうか。
太田:利用するタイミングはいくつかあって、まず、産褥期。どこに頼むか、どんなサービスを利用するか、妊娠中に業者と事前打ち合わせまでできればいいですね。出産は予定日どおりではありませんし、退院してから探すのでは探すこと自体が負担になります。2番目は産褥期が明けた後。日常生活にソフトランディングするために、1日おきとか、夕飯を作ってもらうとか、体調に応じて適宜サービスを利用するといいでしょう。産褥期はみんな心配して来てくれますが、この頃は友人も来なくなります。そんなときに家事や上の子の世話などが押し寄せてきて、つまずくこともあるんです。3番目は仕事に復帰する人の場合ですが、復職後です。このときも育児休暇の後半には検討して、状況に応じて適宜利用できるよう、準備しておくことです。産後の「ちょっとだから無理しちゃえ」というのが実は危険で、「自分が頑張れるかどうか」を基準に決めてはいけません。特に産褥期は「頑張らないことを頑張る」時期。それが家族のためにもなります。家事や育児に関することはどうしても女性が抱え込んでしまいがちですが、夫婦2人の問題です。家事代行サービスの利用も、どんなところがあるのか探すところから夫婦で取り組みたいですね。

プロフィール

太田智子(おおた・ともこ)
NPO法人 マドレボニータ事務局次長。人材紹介会社でキャリアアドバイザーや企画スタッフとして働いていたとき妊娠したが、産休・育休が取得できずに退職。失意の中、ラジオでマドレボニータを知る。2009年に女児を出産し、マドレボニータの教室受講やボランティア参画を経て、2011年から事務局スタッフに。2011年度NECワーキングマザーサロン進行役。地元のマドレボニータ会員と「マドレボニータ西東京チーム」でも活動し、FM西東京ではゲストトーク番組「mokoscope」のパーソナリティを担当中。2014年には男児を出産。

構成・取材・文/今井早智 撮影/山出高士

人気記事ランキング集計期間:過去30日分

関連キーワード

あわせて読みたい関連記事

ハウスサービス一覧